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医師「宮沢あゆみ」による病気の話。「低用量ピルの効果は劇的」

医師 宮沢あゆみのコラム「低用量ピルの効果は劇的」

<症例3>
一組のカップルが診察室に入ってきた。涼子さんと恋人の賢治くんだ。涼子さんは思いつめた表情をしている。

涼子さん:「月経前になるとイライラが抑えられなくて、凄く攻撃的になるんです。職場では何とかこらえているのですが、彼の前では気が緩んでしまい、昨日もちょっとしたことで殴る蹴るの大喧嘩になってしまって・・・」

賢治くん:「それは毎月のことなので、僕も理解しているつもりだったんですが、昨日はもう我慢の限界だから別れたいと切り出しました」

「何かあったのですか?」
「腹が立って、彼の耳にかみついてしまったんです。そしたら、耳に歯形がついて血が出て・・・」
「ハア・・・(心の声)マイク・タイソンか?」

「それで、彼がもう限界だ。別れたいと言い始めたので、この病気を何とかしなければ私はふられると思い、彼に“病院へ行くから1ヵ月だけ待って”と頼みこんだのです。先生、この症状を何とかしてください。月経前になると突然、凶暴になって、人格が変わってしまうんです」
「そっ、そのようですね・・・(心の声)ジキルとハイドか?」

「彼も1ヵ月だけなら待つと言ってくれて、今日は病院について来てくれたんです」

「優しい彼氏じゃないですか。ずっと我慢していたけれど、堪忍袋の緒が切れそうなのですね。大丈夫、1ヵ月で治してさしあげます。取り急ぎ、必要な検査をして、問題がなければ低用量ピルを服用してみてください。次の月経の前から穏やかな気持ちで過ごせます。大丈夫、いつもの涼子さんに戻りますよ」

 
こうして涼子さんは低用量ピルを服用し始めた。
1か月後、彼女は再び来院した。

「そろそろ月経が近いけれど、精神状態はどう?」

「それが先生、何の症状も出ないんです。いつもならイライラして、攻撃的になるのに、全然、普段と変わりないです。月経前はだるくて眠くなったり、集中力が切れたりするのですが、そういう症状もないです。彼も大喜びしています。こんなに効果があるなら、もっと早く服用すれば良かったぁ。私、もったいないことをしました」

涼子さんは無事に賢治君と別れずにすんだ。

 
それから半年後、1通の手紙が届いた。開いてみると、賢治君と涼子さんの結婚式の招待状だった。添えられたメモには、「あの時、先生に相談して本当に救われました。私たち結婚します!」という文字が、大きなハートマークのなかに埋まっていた。

 
月経前症候群(PMS)の治療で、現在、最も即効性がありキレのいい薬は、何といっても低用量ピルである。PMSの不快症状は、排卵から月経にかけて卵巣から分泌が増えるプロゲステロン(黄体ホルモン)の働きでおきることから、プロゲステロンの分泌を抑制することは効果的な治療となる。

卵巣にホルモン分泌の指令を送っているのは、脳の視床下部から指令を受けた下垂体という場所である。低用量ピルは微量のホルモン剤を服用することによって、下垂体に“卵巣から十分なホルモンが分泌されている”と錯覚をおこさせ、結果的に排卵を抑制して、卵巣からプロゲステロンが分泌されるのを抑えるのである。

低用量ピルを服用すると、体温が上昇することもなくなり、眠気、だるさ、集中力の欠如などが抑えられる。プロゲステロンの水分貯留作用もおさまるため、むくみ、頭痛、体重増加なども避けられる。ホルモンバランスが整うことで、精神的にも安定し、月経前にイライラして攻撃的になったり、落ち込んでうつ状態になることも落ち着く。

ホルモン剤というと身構える人も多いが、低用量ピルは、従来の中用量ピルの欠点であった嘔気、むくみ、体重増加などの副作用をかなり抑えることに成功している。

「子宮体がんや乳がんになりやすいのではないか」と心配する声も耳にするが、事前に健康診断を受けて、医師の指導のもとに服用する限り、過度の心配はいらない。「血栓症」に対する心配も耳にするが、がん同様、もともとリスクのある人に処方することは禁じられているので、定期的に検査を受けていれば、過度の心配は無用である。

どのような薬にもメリットとデメリットがある。低用量ピルを服用することによってPMSの不快症状がなくなり、生活の質(Quality of Life=QOL)が改善されることのメリットは非常に大きい。

低用量ピルの服用によってQOLが改善するメリットと薬の副作用によるデメリットを秤にかけて、医師の助言を受けながら、自分で納得のいく選択をしていただきたいと思う。
 

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