医師 宮沢あゆみのコラム「両親の介護問題」
更年期の女性の不定愁訴のなかには、その原因がはっきりとわかっていながら、根本的な解決策が見いだしにくい問題もある。その一つが親の介護問題である。
ようやく子供の手がかからなくなったら、夫の両親の介護に追われ、義父母を看取ったかと思ったら、今度は自分の実親が倒れるなど、介護連鎖による心労で心身のバランスが崩れた場合、投薬で一時的に症状が軽減されても根本的な解決にならないことは明白である。
医師は患者の置かれた家族関係や生活環境を十分に把握したうえで、当事者の悩みに寄り添い、身心の負担を軽減するにはどうしたらよいかを共に考え、場合によっては介護施設を紹介するなど、きめ細かな対応をする必要がある。
<症例3>
地方でひとり暮らしをしていた姑が、階段から落ちて骨折した。退院後も杖が必要となり、自宅を改装して同居することになった。最近、姑は朝食を食べたことを覚えていない、自分がどこに居るのかわからない、など記憶の低下が著しい。病院へ連れて行ったら認知症だと言われた。
パートをやめて姑の介護を始めてから、髪に白いものが目立つようになってきた。最近、突然、胸がバクバクと苦しくなることがある。頭痛や肩こり、不眠にも悩まされている。これも更年期のせいだろうか?
双方の親の介護問題は大きなストレスとなる。「ストレスは万病のもと」といわれるように、ホルモンのバランスを崩し、自律神経を攪乱し、体から免疫抵抗力を奪い去る。更年期にさしかかり、ホルモン分泌が不安定になった女性の心身には強烈なダブルパンチとなる。
介護問題は女性だけに負担がかかりがちだが、一人で抱え込むのが最も良くない。自らの心身がつらい更年期に、自分だけで乗りこえようとしてはいけない。積極的に周囲の支援を求めていこう。
先の見えない介護の場合、夫や家族の協力だけでは限界がある。地域のケアマネージャーやソーシャルワーカに相談したり、介護保険事務所や地域包括支援センターなどと日常的に連携していく必要がある。デイサービスやショートステイ、グループホームなどの介護、福祉サービスを積極的に利用して、自分の人生を慈しむ時間をつくっていこう。
皮肉なことに、真面目で責任感の強い女性ほどストレスを溜め込みがちで、更年期の症状が重く出る傾向にある。チャランポランな女性は更年期の症状があまり重く出ない。自分がなすべき仕事が上手くいかなくても、常に誰かのせいにしたり、その場しのぎの言い訳を考えて、深刻に捉えずにケセラセラと生きていけるからだ。
これに対して、責任感の強い女性はなすべき仕事が完璧にできないと、自分が許せないばかりか、「以前ならきちんとできたのに」と、元気だった頃の自分と比較して落ち込むのである。自分自身を責め、気分転換も上手くないために、逃げ場がなくなり深みにはまってしまうのだ。
しかしながら、専門の介護職でもない人間が、長丁場の介護をひとりで完璧にやり遂げようとすること自体が無理なのだ。特に、常時、高齢者を見守らなければならない心の負担は、更年期の女性にはとてつもないストレスになる。「介護離職」を余儀なくされ、高齢者を見守っているうちに、自分が「介護うつ」にかかってしまったというケースも多い。
素人が介護をする場合には、愚痴をこぼせる相手、SOSを出せる相手をもつことが大切だ。自分に対する期待値をうんと低くして、周囲に広く助けを求めていこう。
高齢化社会は二十一世紀の構造的な問題である。老老介護はすでに日常の風景となっている。介護は高齢者の生活の質(Quality of life=QOL)に直結する問題であり、社会保障制度が十分に確立されていないなかでの療養は、闘病する当事者のみならず、介護する側の家族の生活環境や精神状態にも配慮して、社会全体でどう支えていくかを考えていく必要がある。
もはや介護問題を女性の犠牲のもとにクリアしようという発想は時代遅れといえよう。
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