医師 宮沢あゆみのコラム「濡れ落ち葉対策」
更年期の女性の不定愁訴は多岐にわたるため、何が症状の原因になっているのかを突き止め、どうしたらその症状を軽減できるのかを個別、具体的に考えていく必要がある。今回も更年期によくみられる症例を提示して、その解決策を具体的に考えてみよう。
<症例2>
夫は、先ごろ会社を定年退職した。毎日、家の中でゴロゴロしていて、縦のものを横にすることもない。 「おい、お茶」「おい、新聞」などと、ちょっと手を伸ばせば自分でできることでも呼びつける。外出しようとすると、必ずついて来るのも煩わしい。
そんな夫を見るにつけ、最近、ちょっとしたことですぐにイライラするようになった。たまにヒステリーをおこすこともある。更年期の始まりだろうか?
定年退職後の夫が、特に趣味もなく、暇をもて余して、何をするにも妻の後をくっついてくる様子を、払っても払っても、ひっついて離れない濡れた落ち葉の状態に例えて、「濡れ落ち葉」あるいは「濡れ落ち葉亭主」と呼ぶことがある。また、「主人在宅ストレス症候群」という表現を使う専門家もいる。
子供はいつかはひとり立ちする時が来るが、夫との関係はそうはいかない。妻が子育てに夢中になっている間は、夫も仕事に熱中していて、お互いに無関心でいられても、いざ、子供が巣立ち、夫が定年を迎えて、毎日、顔を合わせるようになると、もはや「亭主元気で留守がいい」などと言っていられなくなる。これからの人生を共に向き合って生きていかなければならないからだ。
定年後の夫と向き合うことに苦痛を感じている女性は、何がストレスの原因になっているのかを紙に書きあげてみよう。夫が自立していないために万事手かかかることなのか、共通の話題がないことなのか、価値観がずれてしまったことなのか、存在そのものが気に入らないのか。
そんな時、結婚時には微笑ましく思えた夫の欠点が許せなくなっている自分に気づくかもしれない。こんな人だとは思わなかったと後悔している自分に気づくもしれない。長い結婚生活を経るうちに、お互いの性格や嗜好が少しずつ変わっていき、いつの間にかすきま風が吹いて、理解できない溝が深くなってしまったことに愕然とするかもしれない。
しかし、夫と話をして解決できる問題ならば、率直に自分の気持ちを伝えて、溝を少しずつ埋めていく努力をしなければ、いつまで経ってもお互いの距離は縮まらない。夫の世話が必要なことで、「束縛されている」と負担に感じているのなら、遠慮せずに夫の自立を促そう。老後、妻に先立たれたら、何もできないのでは本人のためにもならない。「濡れ落ち葉」にならないためにも、「これからは家事を分担してね」と切り出してみよう。
これまで会社人間だった男性は、心のなかでは「毎日が日曜日」をどう過ごしたらいいのか当惑しているのである。会社で自分の役割を振られることには慣れているので、「あなたのサポートが必要なの」と上手に頼めば、使命感を感じて腰をあげてくれるはずだ。手始めに買い物に行ってもらうとか、料理を手伝ってもらうところから始めてみてはいかがだろう。家事の役割分担を決めてしまうのもいいだろう。
共通の趣味があれば会話も復活する。一緒に旅行に行ったり、映画を観に行ったりして共通の話題を増やしていき、空気のような存在から手ごたえのある存在へと、着実に歩を進めてみてはいかがだろう。
夫と一緒に何かをするなんてとんでもないと、もはや存在そのものに愛想が尽きているのだとしたら、離婚も前向きな選択肢となるだろう。
更年期は夫婦関係を見つめ直す良いチャンスなのである。
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