医師 宮沢あゆみのコラム「女性ホルモンは働き者」
卵巣から分泌されるエストロゲンは、女性のからだを若々しく保つために働いているホルモンだ。その作用は身体のすみずみに及んでいるため、エストロゲンの急激な減少は、美容と健康の両面で女性のからだにドラスティックな変化を与える。
エストロゲンが減少すると、美容面では肌に潤いがなくなり、乾燥してかゆみが生じたり、しわやたるみが気になるようになる。髪からも艶やハリが失われていく。からだの水分保持力が落ちるため、ドライアイやドライマウスといった症状に悩まされる人もでてくる。
しかし、最も大事なエストロゲンの仕事は、女性のからだを多くの疾患から守っていることだ。このため、エストロゲンが減少する更年期に入ると、女性はさまざまな疾患にかかるリスクが高まる。その代表的な疾患が、高血圧、高脂血症、糖尿病などである。
かつては「成人病」と呼ばれていたこれらの疾患は、偏った食生活や運動不足、喫煙や飲酒などの生活習慣よって引き起こされることが明らかになり、今日では「生活習慣病」と呼ばれている。
男性の場合には、文字通り日常生活の不摂生によって発症するケースがほとんどだ。しかし、女性の場合には、とりたてて不摂生をしていなくても、更年期を境にこれらの疾患にかかるリスクが相対的に高まるのである。なぜなら、エストロゲンがこれらの疾患の発症を抑える働きをしているからだ。
エストロゲンの守備範囲は、美容面から疾患の予防、健康維持まで幅広い。そう、エストロゲンは働き者なのだ。女性のからだをみずみずしく保ち、多くの疾患から守ってくれる守護神。それがエストロゲンなのである。
次回からは、エストロゲンという後ろ盾を失う更年期以降の女性が、リスクの高まる生活習慣病に対して、どのような対策を取ったらよいのかを考えていこう。