医師 宮沢あゆみのコラム「尿失禁」
1.排尿のメカニズム
老年期に入ると「トイレが近くなった」「ちょっとしたことで漏れやすい」という悩みを多く受けるようになる。
尿の出口を閉じている筋肉には、内尿道括約筋と外尿道括約筋がある。内尿道括約筋は「膀胱括約筋」ともいわれ、無意識に尿の出口をふさいでいる。これに対して、外尿道括約筋は意識的に尿の出口を閉じている。人間はこの2つの筋肉を使って尿意を我慢したり、排尿したりしているのだ。
2.腹圧性尿失禁
くしゃみや咳をしたり、大笑いをしたり、重い荷物を持ち上げるなど、腹圧がかかって膀胱が上から押された拍子に尿が漏れてしまうのが「腹圧性尿失禁」だ。
女性の場合、エストロゲンの減少や加齢によって「骨盤底筋群」と呼ばれる骨盤の底にある筋肉や靭帯がゆるむと、膀胱や尿道が本来の位置からずれてしまう。このため、骨盤底筋群が膀胱や尿道をしっかり支えきれなくなり、尿道括約筋が機能しづらくなって、尿意のコントロールができなくなるのだ。
分娩回数が多い女性は、加齢とともに骨盤底筋がゆるみやすい傾向にある。内臓脂肪の増加や慢性の便秘なども、骨盤底筋に負担をかけるため腹圧性尿失禁の原因となりやすい。
3.切迫性尿失禁
トイレに行きたいと思った瞬間にもう間に合わないのが「切迫性尿失禁」だ。トイレに駆け込んだはいいが、下着をおろす前に漏れてしまったという笑えない問題もおきてくる。
切迫性尿失禁は、自分の意思に反して膀胱が勝手に収縮してしまう「過活動膀胱」が原因でおきる。過活動膀胱の特徴は、尿意を覚えると我慢する余裕もないほどの尿意切迫感と頻尿である。
過活動膀胱も、膀胱と尿道を支えている骨盤底筋群がゆるむことでおこりやすい。また、女性はエストロゲンの減少によって尿道粘膜が萎縮すると尿道炎をおこしやすく、この炎症反応が刺激となって膀胱の過敏性が増し、トイレに何度も駆け込むようになる。
4.尿漏れ体操
子宮脱のところで解説した「骨盤底筋体操」は、腹圧性尿失禁の改善にも非常に有用なので、日常生活に取り入れてみよう。
ここでは、誰にでもできる「尿漏れ体操」を伝授したい。
体操といってもトイレで簡単にできる動作だ。まず、排尿時に尿を勢いよく出したところで、一度、止めてみよう。この時、尿を止めるのに使っている筋肉が尿道括約筋だ。ピタッと尿を止められた人は優秀だ。止めるのに少し時間がかかった人も改善の見込みがある。自分の意思で尿を止めることができたなら、排尿時に途中で何度か尿を止める練習をしてみよう。
排尿する→止める→排尿する→止める→排尿する
これで終了だ。
頻回に排尿を中断すると出にくくなることがあるので、排尿時に毎回やる必要はないが、尿漏れに悩んでいる人は、是非、チャレンジしていただきたい。
排尿中に尿を止められなかった人は、かなり重症だ。尿道括約筋のゆるみを放置しておくと、やがて垂れ流し状態となり、オムツへの道をひた走ることになりかねない。尿失禁は薬や手術で治療することも可能だ。悩んでいないで早めに医師に相談しよう。