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医師「宮沢あゆみ」による病気の話。「脳内ホルモンの乱れ」

医師 宮沢あゆみのコラム「脳内ホルモンの乱れ」

更年期には脳内ホルモン(神経伝達物質)の分泌のバランスも崩れるのではないかと考えられている。

脳には無数の神経細胞(ニューロン)が張り巡らされている。神経細胞と神経細胞の間には僅かな隙間があり、その隙間に神経伝達物質が放出されることによって細胞間の情報伝達が行なわれている。

なかでも、情動に大きな影響を与える神経伝達物質にノルアドレナリン、ドーパミン、セロトニンなどがあり、これらを総称して「モノアミン神経伝達物質」という。

ノルアドレナリンは危険を察知した時に分泌され、生物の生き残りに不可欠な神経伝達物質である。「闘争か逃走(fight or flight)のホルモン」とも呼ばれ、不安、恐怖、緊張といったストレスに晒されると分泌が一気に増加する。

ノルアドレナリンが分泌されると、脳は覚醒し、筋肉に酸素や栄養を送るために心拍数と血圧が上昇し、血液が体中を巡り、瞳孔は拡大する。外敵から身を守るために注意力、判断力、集中力が高まり、心身が一気に戦闘モードへ突入する。

ノルアドレナリンが適度に分泌されている時、人はほどよい緊張感の中で、やる気や集中力が高まる。ストレスに対する耐性も強くなり、リーダーシップを発揮しやすくなる。

しかし、過度のストレスが長期に続くことでノルアドレナリンが減少すると、やる気がなくなり、学習能力や集中力が低下し、注意力も散漫になり、無気力、無関心となる。これが高じると抑うつ症状が現われる。

一方、ドーパミンは快感と多幸感(ユーフォリア)をもたらす神経伝達物質である。恋をするとドーパミンが放出されて幸福感を覚えることはよく知られている。ドーパミンが適度に分泌されているとき、脳は覚醒し、集中力が高まり、すべてに前向きとなる。しかし、多く分泌されればいいというものでもない。

例えば、覚醒剤はドーパミンとよく似た働きをもつと同時に、ドーパミンの作用を増強することにより、強烈な覚醒効果と快感をもたらす。しかし、こうした働きが、結果的に人間の精神活動を混乱に陥れることから使用を禁止されているのである。

また、セロトニンはノルアドレナリンやドーパミンの暴走を抑えて、心の落ち着きや安定感をもたらす神経伝達物質である。セロトニンの分泌が減少すると、人はやる気や集中力が低下し、イライラしてキレやすくなったり、寝つきが悪く不眠になったり、気持ちが落ち込んでうつ状態になったりする。

しかし、うつ病の治療のためにセロトニン作動系の抗うつ剤を多量に服用したり、薬剤の相互作用によって脳内のセロトニン濃度が高まり過ぎると、今度は、発汗や心拍数の増加、吐き気、筋肉の痙攣、体の震え、頭痛、錯乱、昏睡などの、いわゆる「セロトニン症候群」と呼ばれる症状が出現する。

つまり、脳内ホルモンは、増えすぎても減りすぎても心身のバランスが崩れて、人は容易に不安定な状態に陥ってしまうのである。

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