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医師「宮沢あゆみ」による病気の話。「今や性感染症は身近な問題」

医師 宮沢あゆみのコラム「今や性感染症は身近な問題」

性感染症とは、性行為で感染する病気のことで、STD(Sexually Transmitted Disease)ともいわれる。

一昔前、性感染症は「性病」と呼ばれていた。その頃の「性病」のイメージといえは、「風俗で働く女性や歓楽街などで遊ぶ男性たちがかかる特殊な病気」といったものであったが、最近では様相が一変した。

性体験の年齢がどんどん低下し、しかも、男女ともに複数のパートナーを持つことも珍しくはない時代である。いまや性感染症は特定の人がかかる特別な病気ではなく、性生活をもつ人ならば、誰がかかっても不思議ではない身近な問題となったのである。

最近の性感染症の特徴としては、症状が出にくく、治りにくいものが増えたことが挙げられる。

 
1.クラミジア・淋病
若年者の間で流行しているクラミジアや淋病は、症状が出にくいものの代表格ある。クラミジアはクラミジア・トラコマティスという微生物に感染することでおきる。淋病は淋菌という細菌に感染することでおきる。

両者は重複感染していることが多く、しかも、感染しても症状が現れない無症候感染者が増えているために問題となっている。本人に性感染症にかかっているという自覚がないと、無防備な性交渉によってパートナーにうつしてしまい、感染の輪が広がってしまうからである。

特に女性は、クラミジアや淋病に感染していることを知らずに放置していると、子宮から卵管へと炎症が波及して、卵管が詰まって不妊症の原因となったり、骨盤腹膜炎をおこしたりするので、注意が必要だ。

 
一方、根治が難しい性感染症の代表格は、性器ヘルペス、尖圭コンジローマ、AIDSといったウイルス性の感染症である。

 
2.性器ヘルペス
性器ヘルペスは単純ヘルペスウイルスの感染によっておきる。ちなみに、唇にできる口唇ヘルペスはⅠ型で、外陰部にできる性器ヘルペスはⅡ型である。性感染症として問題となるのは、主にⅡ型ヘルペスだが、最近はオーラルセックスの影響で、1型と2型の境界が曖昧になってきている。

性器ヘルペスは外陰部に痛みを伴う多数の水疱ができ、やがて潰れて潰瘍を形成する。表面上は治ったように見えても、からだの神経節という場所に潜伏感染していて、体力や抵抗力が落ちた時に再活性化して、何度でも皮膚や粘膜に再発してくるので厄介だ。

 
3.尖圭コンジローマ
尖圭コンジローマは、外陰部に鶏冠状(鶏のトサカ状)の隆起を呈し、数が増えるとカリフラワー状に盛り上がってくる。性交渉を介してヒトパピローマウイルス(Human papillomavirus=HPV)に感染することによっておきる性感染症だ。

ヒトパピローマウイルスは子宮頸がんを引きおこすウイルスとしても知られているが、尖圭コンジローマと子宮頸がんを引きおこすウイルスでは、ウイルスの型が異なる。しかし、尖圭コンジローマの罹患者は子宮頸がんにかかるリスクも高いので気をつけなければならない。

 
4.梅毒
昔の「性病」の代表格であった梅毒など古い型の性感染症は、ペニシリンなどの強力な抗生物質が普及したことにより、1967年をピークに減少傾向にあった。しかし、2000年以降、各国で再流行がみられており、特に日本では女性の感染者が急増している。

梅毒はトリポネーマ・パリデュムという病原菌に感染して発症する性感染症で、AIDS(Acqired Immuno Deficiency Syndrome=後天性免疫不全症候群)発症の原因となるHIV(Human Immunodeficiency Virus=ヒト免疫不全ウイルス)と重複感染していることが多い。このため、梅毒の感染者を適切に拾いあげることが、HIV感染者の早期発見につながり、ひいてはAIDS発症の抑制につながる。今後の梅毒の動向には注意が必要である。

 
5.HIV感染症
HIVの感染原因の8割以上は性的接触によるもので、主な感染源は血液、精液、膣分泌物だ。これらに含まれているHIVが、生殖器、直腸、口腔などの粘膜を介してパートナーに感染する。

HIV感染症は1983年に発見された当初は、“死に至る病”として恐れられた。このウイルスに感染すると、免疫システムをつかさどるリンパ球が破壊され、からだの免疫力が低下し、健康体ではほとんど害のない細菌やウイルスにも感染しやすくなるからである。これを「日和見感染」という。しかし、その後、抗HIV薬が次々と開発され、1997年に多剤併用療法が導入されて以降、治療法は画期的に進歩した。

今日では、複数の異なる系統の抗HIV薬を同時に用いる強力な抗ウイルス療法(Highly Active Anti-Retroviral Therapy=HAART)がHIV治療の主流となっている。もはや、HIV感染症は、“死に至る病”ではなく、“コントロール可能な慢性疾患”とまでいわれるようになった。

しかし、それは早期にHIV感染を発見して治療に結びつけた場合である。無治療のまま、いきなりAIDSが発症した場合には、予後も不良になりやすい。AIDSはHIV感染の最終段階として発症するのであり、HIVに感染しても早期に適切な治療を受ければ、長い期間、AIDSの発症を抑えることが可能となる。AIDS発症前にHIV感染を発見して治療を開始することの大切さは、いくら強調してもし過ぎることはない。
 

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